春先に萌えいでた若葉たちの色合いがすっかりと落ち着いて、
初夏にぐんぐんと葉を茂らせた梢が雨に叩かれ、
より丈夫な緑を濃くしつつあったのが、
ここ数日やっと戻って来た感のある陽の下で、
しっかとした木陰を織り成す。
ちょっと目を離すと あっと言う間に、
庭やら蔵周りやら、
門から玄関までの飛び石回りやらが草で埋もれるので。
主人である蛭魔がそういうことへ頓着しない代わり、
小さな書生くんが
雑仕の皆さんへと声を掛けて回るようになるのもこの頃で。
偉そうに命じるでなし、さりとて、及び腰で怖々頼むでなし、
『水たまりの元、しいては蚊が増える元になりますから』
何で必要かをくっつけたその上で、
頑張ってくださいと笑顔をつけて言われちゃあ、
頼られて悪い気はしない…となって。
結果、まだ柔らかいうちなので さくさく抜けて
さっさか終わらせられるという好循環になっているようで。
「あとねぇ、せぇなと ちゅたさんで、
甘甘でぷるぷるの おやちゅとか作ゅくるのvv」
「そーそー、作ゅくるのよvv」
こちらは その雑草が生え放題になって
柔らかな敷物代わりにもなっているところへ腰を下ろして。
スズカケだろうか柔らかな梢が
ゆらゆらと揺れながらも涼しい木陰を作っている いびつな輪の中、
大小三つの影が車座になって、何やら楽しげに語らい合っておいで。
瓜二つの風貌をした小さな坊やたちの言いようへ、
「甘甘でぷるぷる?」
何だそりゃと、一旦は眉をしかめた 話し相手のお兄さんだったが、
すぐにも思いつくものがあったか、うんうんと頷いて。
“ああ、寒天使った金玉糖か 蜜に浮かべた白玉だの。”
周囲の里の住人らからまで
“あばら家屋敷”なぞと陰口を叩かれているよな体裁のボロ家だが。
住まわっているのは
宮廷の殿上人らの中でも特に高位の神祗官補佐様なので。
唐渡りの珍しいものや、一般にはなかなか手が出せない高価なものも、
献上品などという格好、先んじて、若しくはふんだんに使えもする。
その地位から…という待遇からだけでなく、
あまり表沙汰にはしていないが、
多くは権門からのこそりとした依頼で
妖異、妖怪、魑魅魍魎なぞ
見事に退治しもする その辣腕への代償も得られる身なため、
当時には希少だった 甘薯から煮だした砂糖を使って作る、
甘い甘い菓子も寒天を固める涼しげな菓子も、
さほど難しいものでもなく和子らへと供されるようで。
そういう贅沢なものを、
ご褒美にと舎人らへも惜しげなく振る舞うような
何ともざっかけない家なだけに、
家人らも快く働いている者が多いらしい。
『まま、たまには驚かされるようなことも起きますが。』
屋敷の周縁に、
何か大きなものが這い回ったような跡が
轍みたいに深々と残ってた朝もあれば、
後足で立って歩く猫が目撃された話も多数。
それを言ったら、くうちゃんと こうちゃんも
時々頭に毛の生えた三角のお耳が出ていて、
可愛いけど変わった鉢巻きだなぁなんて、
子供の雑仕がやや怪訝そうに思ってたりもするしと。
全く全然問題がない訳でもないんですがね。(笑)
「それにしても、お前らはいつもいつも元気だの。」
もう何となくお察しですねの、
屋敷の裏手に広がる裏山を根城にし、
そこのみならず畿内全体という広域を
人が住まわる領地としてではなく、
精気らという存在界にての縄張りにしてござる
蛇の神様、阿含さんが、
屋敷から駆け上がって来た仔ギツネ坊や二人に気がつき、
ひょこりと顔を出して、遊び相手になっていたところ。
とはいえ、ここいらも
そろそろ梅雨も明けての夏の本番か。
朝も早くから蝉が鳴いていたりもするし、
昼にもならぬうちから、
蒸し蒸しする空気を陽の強い照りが貫いて、
炙られているような心持ちになりかねない灼熱が
本気で始まろうとしてもおり。
此処は居心地のいい木陰、
ちょっぴり草いきれの青い香がする
ささやかながらも涼しい風の吹く中だけれど、
「あぎょん、暑ちゅいの嫌い?」
甘い色合いの細い質の髪も頭の天辺近くへ高々結って
青やら淡緑の薄生地仕立ての小袖に袴といういで立ち、
見た目は至って涼しげな坊やたち。
実は…の本身、ふかふかした毛並みのほうも、
夏毛へと一応は生え変わっているそうで。
何よりまだまだ幼い子供ゆえ、
好奇心やら わくわくする気持ちへ
うずうずと応える活力もたっぷりあって。
本人たちはさほど暑さは堪えぬ身らしいため、
自分たちより腕力も体力も強いはずの“大人”たちが
なのに暑くなるとバテバテになりやすいのが、
時にちょっぴり不思議だったりもするらしく。
人の大人はともかく、
妖異側の、しかも大妖の極みだろうこの蛇神までが、
そうなのか?と怪訝そうに訊くものだから、
「俺らは基本、暑さ寒さがそのまま体に響くんだよ。」
変温動物ですものね。
ちょっと種類が違うのだと、
そんな簡単な言いようで済ませる大雑把さは相変わらず。
「でも、あぎょん、寒い寒いでも起っきしてる。」
冬眠てゆうのをしないでしょ?と、
そこは知ってたらしい くうちゃんからの“はてな?”が飛んでくる。
神格とされるほど覇気や精力が強いからなんでしょうけれど、
そんなことをこんな小さな子供に言っても判るまい。
「なに、退屈だったら寝ておるさ。」
それに お前たちの父親気取りのあのトカゲ野郎だって、
一年中お元気に立ち回っているだろうがと、
言いかかって、でも、
開き掛けた口を閉ざすと それは辞めた阿含さん。
腐すつもりが この言い回しだと褒めることになりかねないと思ったか、
それ以前の問題として、
せっかく可愛いのに囲まれているのに、
何で あんなムサいのを思い出させにゃならんと思うたか。
さて、ここで問題ですvv(こらこら)
〜Fine〜 14.07.17.
*蛇の繁殖期は、種類と地域によりますが
シマヘビや青大将は春から初夏だそうで、
南ほど早く四月にはもう交尾が始まるところもあるそうな。
いえね、女性にモテモテあぎょんさんとか
書くつもりだったんですが…。
*蝉が鳴くのを間近に聞きました。
夏が始まるんですね。
熱帯夜は もう何日も体感してますがね。(う〜ん)
めーるふぉーむvv
or *

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